こんにちは。皆さんは日光を浴びることは好きですか?現代では、日焼けは皮膚にダメージを与えるので、日光は体に悪いという印象を持たれがちだと思います。実際にはそうなのかもしれません。一方で、「幸せ」という観点から見ると、日光を浴びることがポジティブに働くことが言われています。今回は、そのメカニズムについて多面的に研究結果を紹介したいと思います。
○日光を浴びるとセロトニンが合成される
幸せホルモンといえば、セロトニンが挙げられます。セロトニンは、穏やかで満たされた感覚を与えてくれる物質であると言われています。日光を浴びることで、セロトニンの体内における濃度が高まることが、Lambert氏らによる研究により示されています(The Lancet(2002)(文献1))。この研究では、血液検査を行うことで、直接的に体内のセロトニン産生速度を計測し、気象条件との関係を評価しました。その結果、その日の日照時間と直接的に正の相関があるということと、光量が増加すると急速に上昇することが分かりました。これは、実際の血液中のセロトニン量を直接的に測定して関係性を示しているということで、価値が高い研究であると言えます。
○光が網膜を通じて、脳の感情を司る部位を刺激している
生活のリズムが崩れており、例えば昼夜逆転のような状態になると、気分が安定しないという現象は、一般的な話として聞いたことがあるかと思います。その理由として、SCN(視交叉上核)という脳内における体内時計の中枢部位を介して神経伝達が起き、体内時計が狂うことで結果として気分が変動していると考えられていましたが、そうではないことが示されました。Fernandez氏らの研究(Cell(2018)(文献2))から、光は「ipRGC→PHb→vmPFC」という経路を主に通っている、つまりSCNではない別のパスを使った直接的な神経伝達が、脳の感情を司る部位に対して起きていることが分かりました。その研究の中では、正常な周期(T24)で光を浴びたマウスはスクロース嗜好性テストで高い得点を記録したことに対して、異常な周期(T7)で光を浴びたマウスは低い得点を記録しました。このことから、正常な光の周期を浴びることが気分の安定に重要であることも分かります。
○紫外線を浴びるとβ-エンドルフィンが分泌される
β-エンドルフィンは内因性オピオイドと呼ばれる多幸感をもたらす物質群の一つです。その多幸感をもたらすメカニズムは、Johnson 氏らのラットの細胞を用いた実験により明らかにされています。(The Journal of Neuroscience(1992)(文献3))。脳内のVTAと呼ばれる部位において、オピオイドはドーパミン神経を直接は興奮させませんが、GABAという「ドーパミンの放出を抑え込む役割を持つ物質」を放出する介在ニューロンの活動を抑制することがわかりました。つまり、間接的にドーパミンの放出を促進することで多幸感をもたらす、と言えます。一般的にはランナーズハイの状態などでβ-エンドルフィンは放出されると言われていますが、日光(紫外線)を浴びた場合はどうなのでしょうか。
実際に、マウスの実験において、紫外線を浴びた場合における、β-エンドルフィン分泌量とオピオイド関連の行動を解明したのがFell 氏らの研究です(Cell(2014)(文献4))。紫外線UVB(フロリダでの20-30分間の日光浴と同等量を週5回)を照射するとβ-エンドルフィンの血中濃度が6週間の期間、優位に上昇しました。そしてその結果として、機械的な刺激や熱に対する耐性が高まりました。つまり、オピオイドの持つ鎮痛効果をもたらしたことになります(この効果がオピオイド拮抗薬により消失することも確認)。ここで、どのようにしてUVを照射するとβ-エンドルフィンが合成されるのかについては、先行研究があり、「ケラチノサイト(皮膚の細胞)に照射→POMCタンパク質を合成→α-MSH(日焼けを引き起こすホルモン)+β-エンドルフィンを合成」というルートを辿るようです(Cui氏らCell(2007)(文献5))。
今回は、光を浴びることで各種経路から幸せがもたらされることが様々な研究結果から示唆されていることを紹介しました。皮膚がんのリスクには十分注意しながらも、規則正しく光を浴びて生きることで幸せを得たいと思いました。外に出ると気分がいいですもんね。
【文献1】G.W.Lambert et al., Effect of sunlight and season on serotonin turnover in the brain. THE LANCET(2002). DOI: 10.1016/S0140-6736(02)11737-5
【文献2】D.C.Fernandez et al., Light Affects Mood and Learning through Distinct Retina-Brain Pathways. Cell(2018). DOI: 10.1016/j.cell.2018.08.004
【文献3】S.W.Johnson and R.A.North., Opioids Excite Dopamine Neurons by Hyperpolarization of Local Interneurons. The Journal of Neuroscience(1992). https://doi.org/10.1523/JNEUROSCI.12-02-00483.1992
【文献4】G.L.Fell et al., Skin β-Endorphin Mediates Addiction to UV Light. Cell(2014). DOI: 10.1016/j.cell.2014.04.032
【文献5】R.Cui et al., Central Role of p53 in the Suntan Response and Pathologic Hyperpigmentation. Cell(2007). DOI: 10.1016/j.cell.2006.12.045
【語句の説明(Geminiを参考)】
- PHb(Perihabenular nucleus):周囲手綱核/手綱周辺核。脳の深部にある視床上部(Epithalamus)の一部である手綱核(Habenular nucleus)のすぐ周辺に位置する神経細胞群。
- SCN(視交叉上核):脳の視床下部に位置し、全身の細胞にある「末梢時計」を統括する体内時計の中枢。
- ipRGC:内因性光感受性網膜神経節細胞):網膜にある第三の視細胞。非視覚的な情報を脳に伝える役割をもつ。
- vmPFC(Ventromedial Prefrontal Cortex):内側前頭前野。感情の調整、意思決定など、高度な精神活動に深く関与するハブの部分。
- T24:12時間の光あり+12時間の光なしの通常の周期。
- T7:3.5時間の光あり+3.5時間の光なしの異常な周期。
- β-エンドルフィン:オピオイドという物質群のうちの1種。ペプチドホルモンである。
- 内因性オピオイド:脳や体にある、「オピオイド受容体」というスイッチに結合して、鎮痛作用や多幸感をもたらす物質を「オピオイド」と呼ぶ。そのうち、β-エンドルフィンなどの体の中で作られる物質のことを「内因性オピオイド」と呼ぶ。
- VTA(Ventral Tegmental Area):腹側被蓋野という中脳に位置する非常に小さな領域であり、私たちの「やる気」「快感」「報酬」を司る中心的な拠点。
- GABA(γ-アミノ酪酸):脳や脊髄などの頻繁に活動する神経系において、情報を伝える「ブレーキ」の役割を果たす抑制性神経伝達物質。通常GABAがブレーキをかけることでドーパミンの放出が抑えられているが、β-エンドルフィンが出るとGABAの活動がストップし、ドーパミンが自由になることで多幸感を得る。
- 介在ニューロン:脳や脊髄の中で「神経細胞と神経細胞の間」に入って、情報の受け渡しや交通整理を行う中継役の神経細胞のこと。
- ケラチノサイト(角化細胞):皮膚の最外層である表皮の90%を構成する主成分細胞。
- POMC(Pro-opiomelanocortin):アミノ酸からなるポリペプチドの前駆体。
- α-MSH:メラニン細胞刺激ホルモン。日焼けを引き起こすホルモンであり、皮膚のメラノサイトに作用してメラニン合成を促進する。




